硬骨魚類を暗または明背地へ長期間適応させることによって生じる形態学的体色変化は、皮膚中の黒色素胞密度の増加・減少と、交感神経繊維網の発達・衰退を伴うことを見出してきた。本年度はまず、両者の変化の時間的な関係性を、長期背地適応後に異なる背地へ再適応させた個体を用いて調べた。その結果、黒色素胞の密度の方が先に変化し、それを追うように交感神経繊維網による神経支配に変化が起こることが明らかになった(発表予定)。続いて、このような現象を調節している因子を調べる目的で、主に哺乳類を中心に末梢神経の再生に関係することが報告されている成長因子である、NGFおよびIGFの関与を調べた。長期背地適応後の鱗またはその皮膚細胞を材料として、市販のモノクローナル抗体を使用した免疫蛍光抗体法によってNGFおよびIGFの検出を検討した。そして、鱗の皮膚細胞をスライド上に塗布して実験に供した場合、暗背地への適応により検出されるNGFが増大する傾向が示された。IGFに関しては変化はみられなかった。このような結果から、黒色素胞の交感神経による支配の調節にNGFが関与している可能性が示された。しかし、用いた抗体がマウスのNGFに対するものであり、ウエスタンブロット法では検出できないなど問題が多く残された。これらの問題を解決するために、分子生物学的な手法を用いることを決め、現在検討している。哺乳類から両性類までの既知のNGFのDNAシークエンスから、プライマーをデザインし、野生メダカよりNGFDNA断片をPCR法により単離した。この断片からプローブを作成し、現在このプローブを用いてNGFの発現に関して実験を開始している。分子生物学的手法を用いるための設備やスペースなどの確保に時間がかかり、当初の計画よりも遅れているが、結果は意義あるものが得られはじめており、今後も科学研究費を基に研究を継続して行きたい。
|