バキュロウイルス・ベクター系を利用して昆虫細胞中で大量発現させたヒト野生型p53蛋白質をモノクローナルカラム抗体を用いて精製し、HeLa細胞の粗抽出液を用いたSV40DNAの無細胞複製系に添加して複製阻害を起こすことを確認した。この際、複製産物の解析から、p53蛋白質による複製阻害の作用点が主に複製開始段階にあることが示唆された。同様に4種類の変異型p53蛋白質(156Pro、248Trp、273His、285Lys)を昆虫細胞内で発現、精製したが、いずれも複製阻害活性を示さなかった。以上の結果は、精製蛋白質を用いた再構成複製系においても基本的に変わらなかった。モノクローナル抗体を用いた共沈降実験により、野生型p53蛋白質はSV40T抗原と試験管内で複合体を形成することが確かめられたが、4種類の変異型p53蛋白質は無細胞複製系の条件下では、いずれもSV40T抗原に結合しなかった。さらに、野生型p53蛋白質はSV40抗原の複製開始点への結合を阻害し、その結果としてT抗原による複製開始点を含む二重鎖DNA断片の一本鎖への巻き戻しを阻害するが、T抗原によって一本鎖環状M13DNA上の短いオリゴヌクレオチドが遊離される反応に対しては非常に弱い阻害効果しか示さないことがわかった。また、野生型p53蛋白質がSV40の複製開始点近傍に塩基配列特異的に結合することが報告されているが、この部分のDNA配列を欠失してもp53蛋白質による複製阻害が見られたことから、p53蛋白質の複製開始点近傍への結合は複製阻害にあまり重要でないと考えられた。以上の結果から、p53蛋白質によるSV40DNA複製阻害の機構は、主にSV40抗原との複合体形成によりT抗原の複製開始点への結合を阻害することにあると考えられる。
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