16細胞胚の背側細胞の細胞質を集め、遠心によって背側決定因子活性を上清を調整し、細胞追跡マーカーのFDAと共に16細胞胚腹側植物半球細胞に注入した。その結果、注入を行った5個の宿主胚すべてで二次の背側軸構造(二次軸)の形成をひきおこすことができた。3例について横断面切片を作成してみると、すべての二次軸は体節、神経管、脊索を備えており、このうち背側中胚葉である脊索と体節はFDAにより標識されていた。また、二次軸直下の内胚葉の細胞も標識されていた。以上の結果より、背側決定因子は腹側細胞を背側化することによって二次軸の形成を引き起こすことが明らかになった。つぎに、背側決定因子によって形成された二次軸が、腹側中胚葉の背側化によって直接形成されたのか、それとも腹側の内胚葉細胞が誘導能を獲得することによって形成されたのか明らかにするために、32細胞胚の腹側細胞に注入をおこなった。32細胞胚では腹側植物半球細胞は中胚葉予定の細胞と、内胚葉予定の腹側細胞に分かれている。二次軸形成の割合は若干減少したが、6割以上の胚で二次軸の形成が観察された。横断面切片の観察により、中胚葉予定の腹側細胞に注入を行ったときには、注入をおこなった細胞自身が二次軸の背側中胚葉を形成していた。また、内胚葉予定の腹側細胞に注入をおこなったときには、二次軸の中胚葉は標識されず、隣接する内胚葉が標識された。このことにより背側計因子の腹側細胞への効果は注入する細胞によって異なり、中胚葉に分化する予定の腹側細胞は背側中胚葉に、内胚葉予定の腹側細胞は背側胚葉を誘導する細胞に変化させることが明らかになった。
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