研究概要 |
申請者はこれまでに8細胞期のツメガエル動物半球分離割球のアクチビン応答能に背腹の差があることを報告しており、この応答能の勾配が体軸の決定に関与していると考えている。これを形成する分子の実態は明らかでないが、昨年度の研究で、割球間の勾配は塩化リチウムによる背側化処理で変更しうる可塑的な現象であることがわかっていた。8細胞期分離割球を用いたアッセイは、通常のアニマルキャップアッセイでは不可能な、予定中胚葉領域の解析を行いうることに特徴がある。本年度は、分離割球をアクチビンと塩化リチウムで処理し、背腹の分子マーカー(筋actin,gsc,Xbra,Xwnt-8)の発現がどのように変化するかを調べた。第一の結果は、動物半球の割球をリチウムで処理しただけで背側(原口背唇部)のマーカーであるgscが著しく発現したことである。通常のアニマルキャップアッセイでは、gscはアクチビンによる誘導によって発現し、リチウムでは誘導されない。この結果は、予定中胚葉細胞においてgscが背側化に応答して発現することを示唆している。これが事実であるなら、従来中胚葉誘導作用によって発現するとされいたgscは、アクチビンのもつ背側化の作用によって引き起こすされていた可能性が考えられる。第二の結果は、動物半球の割球で分化する中胚葉の種類が、アクチビンの濃度のみならず処理の時期に応じて変化することである。MBT以前に処理すると背側中胚葉が、それ以降では腹側中胚葉が優先的に分化した。この実験では全く同じ細胞集団でのgsc,Xwnt-8,Xbraの発現量の変化が調べられ、単なる「応答能の喪失」では説明できない、MBT以前での積極的な背側化が示された。以上の結果は、胚においてアクチビンが初期の背側決定因子として機能しうること、及び背腹軸決定に誘導のタイミングが関与していることを示唆している。
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