研究概要 |
鳥類胚の中胚葉誘導・神経誘導をin vitroで検証するための培養系の作出を手がけた。鳥類胚の胚性多分化能細胞層であるEpiblastの無血清培養条件の単純化について、主な成果が得られたので、それについて述べる。本研究の申請書に記した、筆者が'93に得たEpiblastの完全無血清培地は、Mito+というハイブリドーマの無血清培養用の培地添加剤のX1倍液を、RPMI1640高栄養培地に0.2%の割合で加えている。このMito+には、Insulin,Transferrin,亜セレン酸の他に8種類の成分が入っている。その中には、EGFや成体中にあるホルモンも含まれている。誘導の研究に用いる培地には、成長因子や成体の組織液中に含まれる分子が含まれない方が望ましいと考えられる。そこで上記の無血清培養に最も必要とされる3要素のみで、どの程度Epiblastの培養が可能であるかを調べた。Insulin,Transferrin,亜セレン酸をそれぞれ10μg,10μg,5ng/lの割合でRPMI1640培地に添加しtype I collagenを塗布した基質上で培養した。前原条期のEpiblastの組織片は4日程度の活発な増殖を示し、最大1週間の生存をみた。初期中胚葉組織片は、3要素のみの添加ではMito+入りの培養液程は生育せず、2日後から急速に死滅した。鳥類初期胚のEpiblastからの各組織の誘導現象を調べるにあたって、「神経誘導の系には、3要素のみを添加した培地(に近いもの)でin vitroの実験系の構築が可能であるが、Epiblastからの予定細胞の中胚葉化には、現段階では、中胚葉化した細胞の生存の為にMito+添加の培養液で引き続き実験する必要がある」と思われた。胚体形成域の周囲を取り囲む周縁帯(marginal zone)と呼ばれるド-ナツ状の領域がある。初期原条期の周縁帯の頭方向の部分は、原条頭端部のHensen's node(鳥類胚のオルガナイザーに相当する)の移植により神経管が誘導され、脳胞に発現する分子がそこにも発現するとの報告がある。つまり周縁帯の頭部領域は、中枢神経系の形態形成の能力を十分に有しているらしい。片や申請書に記したように、岡本らは、カエルの動物極側組織由来の細胞が、数pM程度の微量のbFGFに反応して神経化することを報告している。そこで、頭方向の周縁帯組織の小片を切り出し、type I collagenの塗布面またはゲル上で培養しながら、培養液中に1-80ng/mlのbFGFを加えて神経組織化が起きるか否かを調べた。Hensen's nodeと共培養したpositive controlにおいては、数百-千μmもの長大なneurite様突起が5-7日目に形成されたが、bFGF添加のみの実験群では突起形成は生じなかった。今後、更に詳しく実験条件を検討していきたい。
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