研究概要 |
本年度はPOU転写因子群の一つであるOtf-6(Oct-6,Tst,Scip)遺伝子のgene targetingを行った。まずOtf-6遺伝子の単離を行い得られたゲノミッククローンを用いて遺伝子地図を作成した。この遺伝子地図をもとにtargeting vectorを作成しES細胞に導入して、Otf-6遺伝子が破壊されたES細胞を同定した。得られたES細胞を受精卵に注入したのち仮親に移植し、キメラマウスを作出した。キメラマウスとC57B6との交配によりF1マウスを得て遺伝子型を決定することによりOtf-6遺伝子が破壊されたヘテロマウスが作出されたことを確認した。ヘテロマウスどうしでの交配によりOtf-6遺伝子が破壊されたホモマウスの作出を行った結果、Otf-6遺伝子が破壊されたホモマウスは胎児期もしくは生後まもなく死亡することが明らかになった。現在胎児期での異常がどの段階で起こっているのかを検討中である。現在のところOtf-6遺伝子産物に対する特異的な抗体が存在しないので上記の検討のためにも特異抗体を作ることが必須と考え、大腸菌で融合蛋白を発現させ精製を行いポリクローナル抗体をウサギで作成中である。 Otf-6遺伝子が破壊されたホモマウスがこのような早い時期に死亡することは当初の予想に反して驚くべき結果であった。このことはこの遺伝子が個体発生において非常に重要な役割を果たしていることを示唆する結果であり、このマウスを用いて解析を進めることにより神経組織の発生における重要な知見が得られるものと考えている。今後このマウスを利用してOtf-6遺伝子産物により転写制御を受けている遺伝子の単離および部位特異的なプロモーターを利用した機能の相補を行いアダルトの時期まで生存可能な個体の作出を行う予定である。
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