研究概要 |
嗅覚受容体遺伝子ファミリーの匂いの認識以外の多様な機能的可能性を検討するため、ラット脳から抽出したmRNAよりRT-PCR法を用いてこのファミリーに属する新しい遺伝子を検索したところ。嗅覚受容体遺伝子ファミリーと高い相同性を示す新しい遺伝子のcDNA断片を16種類(BOLF1〜BOLF16)単離し、塩基配列を決定した。これらのクローンは互いに40%から80%の高いアミノ酸の相同性を示した。しかし、これらのクローンの分布をin situハイブリダイゼーションにより観察したところ、脳ではほとんど発現が認められず、嗅上皮の感覚細胞おいて散在性の発現が認められた。最近、嗅覚受容体の5種類のクローンのmRNAがその投射先である嗅糸球の神経終末に存在しているという報告があることから、PCRにより得られたこれらのクローンも感覚細胞の神経終末に存在しているmRNAをとらえている可能性が考えられた。 しかし、2つのクローン(BOLF8,11)をプローブとしてラット全脳のcDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、これらの2つの遺伝子とは異なる新しい嗅覚受容体遺伝子ファミリーに属するクローン8041を得た。in situハイブリダイゼーションによる解析の結果この8041は嗅上皮のみならず鼻粘膜呼吸部にもそのmRNAの発現が認められた。また、胎生17日のラットにおいて8041クローンは、脳脈終叢や咽頭上部にその発現が観察された。この8041mRNAの嗅粘膜呼吸部、脈絡叢、咽頭上部での発現は他の嗅覚受容体遺伝子ファミリーでは現在までに報告されていない新しい異所性の発現であった。これらの嗅上皮以外の領域で8041の発現の機能的意義はまだ明かではないが、化学受容器等の新しい機能を担っている可能性があり、今後この8041のリガンドを明らかにしていく必要があると考えられる。
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