神経特異蛋白質であるHPC-1は、その機能としてシナプス小胞のシナプス前膜への融合過程への関与が指摘されていた。しかし、HPC-1がこの過程について促進的に制御しているとする報告し、抑制的に働いているとする報告があり、その機能について明確ではなかった。そこで、神経細胞のモデル細胞であるPC12h細胞を用いて、抗HPC-1抗体による機能阻害実験を行った。PC12h細胞にHPC-1が存在することは、免疫組織化学的染色およびウエスタンブロッティング法により確認した。ところで、HPC-1は細胞内を向いた膜蛋白質であるので、抗体をただ細胞に与えてもその機能を阻害することはできない。そこで、PC12h細胞を、ジギトニンで処理することにより細胞膜に小孔を開けて抗体を細胞内に与え、その後のカルシウム依存性のノルエピネフィリンの放出量を測定した。その結果、抗HPC-1抗体を与えた細胞ではカルシウム依存性のノルエピネフィリンの放出量は増加した。同様の結果は二種の異なるポリクローナル抗体で得られた。また、抗体の濃度を上げるとノルエピネフィリンの放出が減少することがあったが、このような減少は過剰な抗体による非特異的な効果であると考えられた。以前に報告があった、抗HPC-1抗体により開口放出が抑制されたとの結果はこのような非特異的な効果を見ている可能性がある。以上の結果から、HPC-1はカルシウム依存性の開口放出過程において抑制的に働いていることが示唆された。今後、カルシウム流入以後のシナプス小胞の開口放出過程をHPC-1がどのように抑制的に制御しているかを明らかにすることは、シナプス伝達の制御機構を明らかにする上で重要である。また、開口放出以外の膜輸送等に関するHPC-1の機能を明らかにすることは、神経細胞の形態形成の制御機構を明らかにする上で重要であると考えられる。
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