我々はこれまでにラットPMP22のC末端部分を認識する抗体を作製し、神経系発生過程におけるPMP22の発現様式を新生マウスの脊髄後根神経節細胞とシュワン細胞の共培養系を用いて検討した。その結果、培養初期に見られる未成熟シュワン細胞ではPMP22の発現は極めて弱いが、神経軸索伸長に伴い軸索周囲に接着したシュワン細胞ではPMP22の強い発現が認められた。この結果は、分裂増殖段階にある未分化なシュワン細胞が軸索からの情報で成熟し、分化誘導を受ける過程でこの蛋白が特異的に発現することを示唆しており、PMP22がシュワン細胞の増殖停止並びに分化誘導に関与する可能性を示唆している。末梢ミエリンの形態形成過程におけるPMP22の発現及び機能解析を目的としてPMP22遺伝子のクローニング並びにPMP22遺伝子導入による強制発現細胞株の確立を行い、この発現細胞株を用いた機能解析を行った。 ラットの坐骨神経から総RNA画分を調製し、これを鋳型としてRT-PCRによりラットPMP22の蛋白質領域をコードするcDNAのクローニングを行った。その塩基配列を確認後、pBactSTneo発現ベクターのアクチンプロモーターの下流に挿入し、PMP22遺伝子発現ベクターの作製を行った。次にこれらをリン酸カルシウム共沈法によりラットC6グリオーマ細胞に導入し、強制発現細胞株を樹立した。これらの発現細胞株を用いて、細胞増殖におけるPMP22発現の影響に関して検討を行った結果、形質導入してない対照C6細胞、ネオマイシン耐性遺伝子のみを導入したC6neo細胞が著明な細胞増殖を示したのに対し、2種のPMP22発現細胞の増殖は著しく低下した。次に細胞分裂の指標となるBrdUの取込みを比較した結果、C6neo細胞では計測した細胞数の約75%がBrdU陽性細胞であったのに対し、PMP22発現細胞では約50%であった。この結果はPMP22が細胞の分裂増殖停止機構に深く関与している可能性を強く示唆している。Charcot-Maarie-Tooth(CMT)病1AにおいPMP22の発現が正常の1.5倍に増加するとCMT病1A、正常の0.5倍に減少すると圧感受性遺伝性ニューロパチーが発症する。本研究結果は、未成熟シュワン細胞にPMP22が過剰発現することに伴う分裂増殖脳の低下がミエリン形成不全の起因となる可能性を示唆するものであり、正常なミエリン形成の為にはPMP22の発現量を一定レベルに保つ必要性が示唆された。
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