中枢および末梢神経の伝達物質であるアセチルコリンはコリンアセチル転移酵素(ChAT)による一段階反応で合成される。アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患で、コリン作動性ニューロンの変性、脱落が知られている。このためコリン作動性ニューロンの発生、分化および機能維持のメカニズムと、その病態を解明することは社会的に強く求められている。ヒトの各種神経疾患におけるコリン作動性ニューロンの動態を解析する目的で、ヒトのChATcDNAクローンを単離した。ヒトのChATcDNAはラット、マウス、ブタで翻訳開始コドン(ATG)に相当する箇所がスレオニン(ACG)に変異しており、N末側にさらに108残基のアミノ酸が付加する特異な構造であった。 本年度は、上記のcDNAとはN末部分の構造の異なる、新しいタイプのChATcDNAのクローンをヒト脳cDNAライブラリーにより単離し、その構造を決定した。さらにRT-PCR法により、3種類の新規構造を持つChATcDNAを同定した。これらの結果、ヒトChATにはN末構造の異なる複数の分子種が存在することが明らかとなった。また、人体病理組織におけるChATタンパク質を特異的に解析するために、ヒトChATタンパク質を特異的に検出する抗体の作製に成功した。 現在は、ヒトChAT分子種の多様性の生理的、病理的役割の解明を目指して解析を求めている。
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