無菌マウスにヒト糞便を投与したヒトフローラマウス(HFM)は、腸内菌叢の研究のための有用なモデル動物となると期待されているが、申請者は腸内細菌由来の発癌関連酵素活性などの性状は投与したヒト糞便に近い値を示さない場合もあることを明らかにしてきた。その原因の一つとして菌種レベルでの菌叢構成の変化が考えられ、HFMをモデルとしてより適当なものとするためには菌種レベルでの研究が重要である。 本研究では発癌関連酵素活性の測定法を改良して菌株のもつ酵素活性を測定する方法を確立し、様々な菌種に属する菌株の酵素活性をin vitroで測定した。その結果、β-glucuronidaseはClostridium perfringensやBacteroides vulgatusなどに高い活性を持つ株がみとめられ、Bifidobacteriumの各菌種ではほとんど活性は見られなかった。一方、β-glucosidaseはB.fragilisグループなどで活性の高い株がみられたほか、Bifidobacteriumの各菌種にも活性の高いものが多かった。また、同じ菌種でも菌株間に大きな活性の差がみとめられるものもあった。このことは、ヒト糞便とHFM糞便の最優勢菌叢を構成する菌を分離、同定した結果、共通して分離される菌種が多かったこととあわせると、ヒトとHFMの代謝活性の違いは菌種構成の変化だけでなく、菌の代謝活性の変化も関与していることを示唆している。さらにこれらの菌株から各酵素活性の高いものや活性のないものを選んで無菌マウスに投与したmono-associatedマウスの糞便酵素活性を測定したところ、ほぼin vitroでのスクリーニングと一致した酵素活性がin vivoでもみとめられた。今後、これらの成果をもとに特定の発癌関連酵素の活性が高いノトバイオートマウスなど、特徴ある腸内菌叢を保有するマウスを作出することにより、腸内の環境や代謝活性とヒトの発癌との関係を実験的に明らかにするための有用なモデル動物が開発できるものと考えられる。
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