研究概要 |
本研究では、血流が内皮細胞と白血球の接着にどのような影響を及ぼすかについて内皮細胞の接着分子の発現の面から検討した。マウスリンパ節細静脈から培養した内皮細胞に流体力学的に設計した流れ負荷装置で定量的な流れずり応力を負荷しリンパ球との接着率の変化をバインディングアッセイ法で測定した。その結果、流れ負荷をかけないコントロール群に比し、流れ負荷群では内皮細胞とリンパ球の接着率が著明に低下した。次に同様の装置を用いて内皮細胞に流れを負荷し細胞表面の接着分子(VCAM-1,CD44)の発現を蛍光抗体法およびフローサイトメトリーで測定した。細胞表面のVCAM-1,CD44はコントロール群で豊富に存在したが、流れ負荷によりVCAM-1の発現量は有意に減少した(1.5dynes/cm2の流れずり応力6時間負荷で50%減少)。CD44は両群で有意な差が認められなかった。流れ負荷によるVCAM-1の発現の減少は細胞に負荷した流れの負荷時間およびずり応力の大きさに依存した。次にこのVCAM-1発現に対する流れずり応力の影響が内皮細胞の遺伝子のレベルにまで及んでいるかについて検討した。上記の流れ負荷群およびコントロール群の細胞からAGPC法によりRNAを抽出し、RT-PCR(reverse transcriptase/polymerase chain reaction)法を用いてVCAM-1のmRNAの発現量の変化を解析した。結果、コントロール群に比し流れ負荷群ではVCAM-1 mRNAの発現量は著明に減少した。また、この流れ負荷によるVCAM-1 mRNAの発現量の減少は流れ負荷時間および流れずり応力の大きさに依存性であった。今回の研究により、マウス内皮細胞において血流に起因する流れずり応力は内皮細胞のリンパ球への接着能を低下させること、細胞表面の接着分子VCAM-1の発現を蛋白および遺伝子のレベルで抑制することが示された。
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