本研究課題では、細胞に対するインターフェイスの構築を目的にし、電解重合で得られた種々のポリピロール膜とその培養細胞の形態や機能評価から、電極表面が細胞に与える影響について調べた。 ピロールを支持電解質共存下で定電流電解し、ITO基板上にポリピロールを析出させた。支持電解質として、NaClとPAAcを用いた。細胞は、副腎髄質細胞の株化細胞であるPCl2細胞を使用した。このPCl2細胞は、神経伝達物質であるドーパミンを合成し、アセチルコリン刺激によりドーパミンを分泌する細胞である。また、神経成長因子(NGF)により神経突起を出し、同時にドーパミンの合成量が増加する分化誘導が行われる。実験は、細胞の懸濁液をそれぞれのポリピロール基板上に播種して5%CO_2インキュベータ-内で培養し、その細胞の接着形態の観察を光学顕微鏡で行い、細胞の機能評価をドーパミン合成量と細胞から分泌される放出量の定量で行った。対照サンプルとして、細胞外マトリックスであるコラーゲンを用い同様の検討を行った。 ITO基板上ではPC12細胞が凝集体を形成した状態を示し、ポリピロール上の細胞は、コラーゲン上のそれらと同様にシングルセルの状態で接着し、ポリピロールを被覆することによる細胞の接着形態の変化が見られた。また、NGFを添加した際に、ITO上の細胞では神経突起をあまり出さなかったのに対し、ポリピロール上の細胞は充分な突起を出し、ポリピロール上の細胞には、NGFに対する応答性が維持されていることが分かった。また、ドーパミンの合成量については、どの基板上でもコラーゲン上と同量の合成量を示したものの、NGF添加後の合成量については、ITO上では増加が認められず、ポリピロール上の細胞のみが、コラーゲンと同様の増加を示した。さらに、ドーパミンの分泌量に関しては、ドーパミンの合成量の場合と同様な傾向が認められた。すなわち、ポリピロール上ではコラーゲン上と同程度の細胞の機能を維持することができることが明らかとなった。
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