動脈硬化病変が血管内で局在化するメカニズムとして、血行力学的因子、特に血流の血管壁に対する影響が注目されているが、動脈硬化の好発部位と非好発部位で血流が血管壁の脂質移動等に与える影響についてはこれまで十分に理解されていない。その主な理由は、1)血管壁近傍で血流速度を微細に計測・評価することが困難であったことと、2)血流が脂質代謝や細胞機能に与える影響についての検討がこれまで主として培養内皮細胞を対象にしたもにに限られていたためと考えられる。 そこで本研究では、実際の動脈硬化の場である血管で血流速度分布と対応づけて動脈硬化病変の解析を行った。すなわち、血流構造の特徴が異なった血管部位で、アセチル化低比重リポ蛋白(Ac-LDL)の血管壁内3次元分布を共焦点型レーザ走査顕微鏡を用いて解析・検討した。具体的には、雄Wistae Ratの尾静脈からAc-LDLを注入して5分後に致死させ、大動脈-腎動脈分岐部をパラホルムアルデヒドで圧灌流固定した。ビスベンジマイドで内皮細胞と単球の核を染色した後、共焦点型レーザ走査顕微鏡を用いて立体再構築画像を作製して観察した。血流条件が異なる大動脈-腎動脈分岐部頭側、同分岐部尾側、腎動脈末梢の3部位における血管壁内Ac-LDL分布曲線を観察画像データより求め、比較検討した。 その結果、血流によるずり応力が相対的に低い分岐部頭側では、他の血管部位に比べてAc-LDLの密度が中膜層まで高かった。これは、動脈硬化の発症頻度の分布ともよく一致した。したがって、局所血流構造は血管壁の脂質移動に影響を与え、これが動脈硬化の局在化に関与する可能性が示された。
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