研究概要 |
真理概念の位置付けを再検討する試みの一つとして、古代ヘレニズム分化の末期と西方キリスト教分化の形成期という大きな分化史上の転換期に登場して大きな影響を与えたと言われるアウグスティヌスの真理観を検討し直すことが課題である。先年度までで、この視点から、最初期の哲学的対話篇『アカデメイア派論駁』の新たな解釈を示し、そこでは、二つの異なる真理観に与える者(アカデメイア派懐疑論者とアウグスティヌス)の間でuerus,ueritas等の語と明示的に相関する動詞的表現の用法にそれぞれ整合的だと考えられる異なった「真理観」を指摘できること、その異なりを、行為の記述に注目することによって、有意味な異なりとして記述できること、そのテキスト解釈上の適用、を示した。当年度は、その解釈に従って、同著の他の部分(これまでの研究史で十分論じられてこなかった)も解釈できることを示し、彼の真理観の全体像をより明確にすると共に、それに応じて中期及び後期の哲学的主著(『告白』第十巻及び『三位一体』第八巻〜十五巻)の再解釈の可能性を示すことが出来たと考える。アウグスティヌスが提起した問題は、真理概念を「価値」という視点からどのように位置づけるかという問いであり、彼はそれを「有用性」や「認識の原理」として捉えるだけでは、研究的には不十分であると考えていたと言える。真理、善といった「価値」を我々の生のあり方のなかでどのように位置づけることが出来るのか、についての根本的な枠組みの見直しの可能性を提示することは、現代の言語論・意味論の研究から登場してきた、真理条件意味論批判のような、正誤とは別の概念として真理概念を位置づけようとする試みと問題を共有するものであり、以上の研究は、平成6年度に当研究費補助金によって購入することを得たパーソナルコンピュータのメモリを増設し、データの分析を行い易くすることで可能になった。
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