研究概要 |
日本語テキストの読みの過程を境界法を用いて実験的に検討した。読みは高速の眼球の移動を伴うかなり自動化された視覚情報処理過程を含んでいるが、読みの眼球制御がテキストのどの成分によって行われているかは不明である。本研究では、テキストの漢字と仮名の成分の周辺視による前処理が読みを制御しているのではないかとの仮説のもとに、これを実験的に検討した。境界法は眼球運動をリアルタイムで自己回帰的にフィードバックさせて読みの有効視野を制限する移動窓法(Osaka & Oda,1994参照)を発展させたもので、眼球の移動開始時に読みの方向に展開した有効視野の境界部位のテキストなどの文字を入れ替える方法である。この方法によって(1)読みの有効視野が読みの方向に向かって広く展開し、凝視点に対して非対称構造になっていること、および(2)テキストの意味的情報が有効視野の境界部分ですでに抽出されていることが明らかになった。とくに、テキストの漢字部分と平仮名部分のセグメンテーションは周辺視野で行われていることが分かった。これは、漢字(高周波成分)と仮名(低周波成分)がもつ空間周波数成分の特徴分析がすでに周辺視野で行われていることを示唆している。読みの眼球のサッケード運動の移動距離の計算手掛かりが有効視野境界領域のテキスト情報や文脈情報がによって予め決定されているということは、読みにおける眼球制御がかなりの程度の自動的な計算過程をその背景にもつことを示唆している。
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