【研究1】乳児期から幼児期にかけての子どもの情緒的シグナルや視線は、自己の状態を知らせるためのコミュニケーションとしての機能を発達させていくと考えられる。もしこの種の前言語的コミュニケーションが言語的発達と関係するなら、言語の発達の遅れをしめすような子どもの一部には情緒的なコミュニケーションの水準においてすでに何らかの兆候がしめされている可能性があるといえよう。 この研究では言語の遅れを示した1ケース、疑似的遅れを示した1ケース、それに標準的発達を示した12ケースについて、生後12から24カ月までの縦断的観察をおこない、前言語的コミュニケーションの分析をおこなった。この結果、子どもの視線の配分、手と目のゾーンにおける動作の協応、表情・発声の出現などに、言語の遅れたケースには健康な言語発達を遂げたケースにはみられない独特の特徴があることがわかった。 【研究2】情緒的シグナルの発達はまた、親のような誰かによって<読みとられる>ことによってコミュニケーションとしての機能を成立させるといえよう。大人の側の読みとりのはたらきをとおして、子どもの行動要素の何が情緒的解釈をガ イドしているのかを検討したいと考えた。 この研究ではヴィデオからの情緒的行動の「書き落としデータ」を4ケース分(4から6歳児)用意し、アニメーション画像としてコンピュータに再現することにした。これを大人によって評価してもらい、その評価結果をヴィデオ画像と比較することにした。すなわちアニメーションとして再現された画像がどれほどもとの子どもを再現しているかを調べたのである。この結果、ヴィデオ画像をアニメーションが再現しえなかった範囲がどこにあったかが明らかになった。つまり「書き落としデータ」には、ある部分の動作のパターンの情報を落としていることが示された。
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