本研究は、高等教育の研究メカニズムを、ここの機関レベルでの分析を通じて明らかにしようとするものてある. 従来教育の拡大のメカニズムに関する研究は、技術的機能主義、人的資本論、葛藤理論、制度理論などの立場からなされてきた.技術的機能主義は、産業構造、職業構造の変化を主な拡大の原因と考え、経済からのニーズヘの対応として学校教育が拡大すると考える.人的資本論は個人を主要なアクターとして促え、収益率の概念を用いて、より高賃金を獲得するための教育への投資行動が、結果として学校教育の拡大をもたらすとみなす.葛藤理論は、上記2つの立場と異なり、学校がより高度な知識や技能を社会化するからではなく、社会的地位を保障するがために、複数の地位集団間で争われる競争の結果、学校教育は拡大するものと考える.そして最後の制度理論は、教育システム自体に自己増殖のメカニズムが内包されているという立場をとる. しかし、いずれの理論も、学校教育の拡大が可能なのは、学生を収容する宇校の規模が拡大しないことには不可能てあることを看過している.つまり、いくら教育への需要が高くても、学校の数が増えたり、収容力が増大しない限り学校教育全体の規模は拡大しないのである. したがって、学校教育へのニーズが高まったときに、個々の学校が組織としていかなる行動をとるのかを分析しない限り、拡大のメカニズムは明らかにされない. そこで、学校教育の拡大、特に高等教育の拡大の主要なアクターとして機関を設定し、どのような条件で、どのような行動を示すのかを分析することを目指した. 第1章では、先行研究を批判的にレビューし、組織社会学的分析の枠組みを設定した 第2章では、高等教育機関の組織社会学的分析の事例研究として、わが国の大学院組織の発生と変容メカニズムを、組織理論の諸概念を用いつつ分析した. 付録では、近年の組織社会学における「オープン・モデル」の有効性を鑑み、環境の組織構造への影響を調べるために、ドイツにおける大学院組織の発生と変容に関する論文の翻訳を行った.第2章と付録部分を比較検討することにより、同じ目的を有する組織(高度な研究と教育)でも、それがおかれる政治的・経済的・文化的環境が異なれば、組織構造も大きく異なることが理解できた. なお、今後の課題としては、本研究で議論した分析枠組みや事例研究の成果をふまえて、より大規模な軽量的分析が残されている.
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