研究概要 |
今年度は、近世日本にオランダ船が持ち渡った輸入品に焦点を絞り、その実態(品目名・種類・数量・原産地等)を事例を通して解明し、国際的商品流通過程内における日本の位置付けを試みるための基礎的実証研究を中心テーマに調査・研究をおこなった。今年度発表した論文の要旨を記し概要としたい。1.論文「長崎貿易の精華-その輸入品をめぐって-」では、長崎貿易を概観した後、文政2年(1819)のオランダ船積荷物について、その基礎的研究をおこなった。本研究では、オランダ船を通して、オランダ本国および東南アジアを中心とするその通商圏内の品々が長崎に持ち渡られ、長崎会所で一括購入された後、長崎において国内商人に販売され、それらが上方に運ばれた実例を検討することができた。2.論文「近世中期におけるオランダ船積荷物について-正徳元年(1711)の本方荷物-」では、事例の焦点を近世中期(正徳元年,1711)に絞り、上述の論文同様、オランダ船積荷物の基礎的研究をおこなった。3.論文「近世における毛織物輸入について」では、オランダ船が日本に持ち渡った毛織物に注目し、その輸入の実態と用途を中心に考察した。その結果、近世を通じて、一時的に輸入販売の禁止はあったものの、大羅紗・小羅紗・ふらた・羅背板・へるへとわん等、各種の毛織物が輸入されつづけていたことがわかった。16世紀中期より輸入された毛織物は、武士階級にとって派手やかな威厳と権威の象徴となり、それは江戸期にも将軍を頂点として継承されていった。しかし次第に毛織物は、町人階級の手のとどく存在となり、幕府の禁令と背中あわせに枠と贅の対象としてその憧憬は高まりをみせていった。近世の毛織物輸入はまさに幕府の権威と町人の枠をささえるものでもあったのである。これも近世の国際的商品流通の生んだ一つの文化とみることができる。今後は、今年度の研究成果をより発展的に進めるべくより多くの事例を積み重ね、オランダ船積荷物の日本文化・社会・経済に与えた影響を国際的商品流通の中で調査・研究を進めていくつもりである。
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