研究概要 |
『栄花物語』や『増鏡』は、『源氏物語』をはじめとする物語文学の強い影響下にある。『大鏡』や『今鏡』においても,物語文学に対する多大な関心がうかがえる。歴史物語各作品は物語文学の盛行と無縁には存立できないであろう。一方,物語文学も,その基盤において,歴史物語と深くかかわるのは否定できない。『源氏物語』の顕著な歴史性,『海人の刈藻』や『我身にたどる姫君』の歴史物語的性格など,その徴証は尽きない。 このように,歴史物語と物語文学は根底において深く相関するのであるが,その実態の究明は(歴史物語の発生や物語文学の退潮の問題の追究を除いて)ほとんどなされていないように思われる。そこで,各作品の構想の基幹にかかわる「政権構造」(皇位や政権の推移を中心とした宮廷世界の諸事象)に注目して両者の比較研究を試みたのが本研究である。 特に,摂関・大臣・「先坊」を指標にすると,『栄花物語』『大鏡』『今鏡』『水鏡』『六代勝事記』『五代帝王物語』『増鏡』『梅松論』『保暦間記』などの歴史物語作品と,『源氏物語』『いはでしのぶ』『浅茅が露』『海人の刈藻』『我身にたどる姫君』などの物語文学作品との交流の諸相が明らかになった。 また,上の考察の過程で,軍記文学作品群をも視野に入れなければ十分な究明ができないことが判明した。すなわち,相関関係は「歴史物語」と「物語文学」の間においてではなく,「通史的歴史叙述」と「物語体文学」との間において生じるものなのである。したがって,今後は対象作品の範囲とその分類方法を修正して,考究を継続する予定である。
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