研究概要 |
(1)初年度では「文化的生存権の比較法的研究」のための,日本における学界水準の確定及び文献調査・資料収集に努めた。比較法の対象となる外国としては,主としてニュージーランドに絞って資料収集を行い,科研費により,かなり充実した図書を集めることができた。スイスなどドイツ語圏については今後の課題とした。 文化的生存権とは,憲法25条の「最低限度の文化的生活」とは何かを研究しようとするものであるが,それは,国民の権利としての最低限度の文化享受権であるか,文化へのアクセス権と言いうるものを国が保障する義務を有するとした場合,文化享受の中味は,映画・演劇・音楽など文化芸術的遺産,奈良の大仏や姫路城などの歴史的遺産,白神ブナ原生林や清流長良川のような自然的遺産へのアクセスを可能にするための国の文化財等の保全義務と文化享受アクセスへの援助義務を意味することになる。しかも,最低限度の文化的生活は,刑務所,生活保護世帯,小中学校でとりわけ問題になると考えられるが故に,そのフィールド調査によって,その客観的規準を明らかにしてゆこうとした点に研究の意義がある。フィールド調査は特に刑務所に絞られ,初年度は和歌山女子刑務所が,2年度には堺市の大阪男子(重罪)刑務所が調査対象となった。 (2)3年度は初年度の研究代表者(近藤)がニュージーランドへ留学したため,「文化的生存権の比較法的研究」が本格的に可能となったが,研究代表は2年度に続いて宮野が行った。宮野の研究は,文化的生存権の自然的遺産の享受権としての環境権保障の環境経済学的及び財政学的分析をテーマとすることになった。年度末には,近藤がニュージーランドから研究成果をもって帰国し,発表作業に入っている。ニュージーランドの刑務所における受刑囚の文化的処遇についての研究がなされたのと,ニュージーランドの文化行政の研究が行われた。1997年4月中に成果の発表がなされよう。スイス等ドイツ語圏の文化的生存権の研究は,生活保護世帯,学校の研究とともに今後の課題として残された。
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