研究概要 |
1.研究成果報告書にあるように,本研究は,ポーランドの農村部に焦点をあてて,作文コンク-ル応募作品や,農民の回顧録などの生活史資料を収集・分析し,それらの主観的叙述を官報など公的資料で確認し,さらには実態調査も踏まえて,灌漑や電気の導入など農村部におけるミクロ的な意思決定のしくみを解明しようというものである。 2.まず,生活史資料の収集は予想以上の成果を挙げることができた。27点の合計2万頁を越える資料が収集できた。一方,反省点としては,最近25年ほどは作文コンク-ルが実施されておらず,社会主義体制の維持と崩壊に関する資料が収集できなかったことがある。生活史資料からは,社会主義の成立過程に関する歴史分析しか行えなかった。その中で,部落長が果たしている役割の重要性が確認できた(研究成果報告書第1章参照)。 3.一方,官報資料との照合という立法研究は,社会主義の崩壊から市場経済への移行の時期におけるポーランド農業の変化に関する十分な研究成果を挙げることができた(研究成果報告書第2章参照)。 4.実態調査については,本研究が国際学術研究でないため,実施しえないが,私費にて実施したリトアニアにおけるポーランド人部落の調査で,生活史を口頭にて聞き取って分析している(研究成果報告書第3章参照)。 5.総括。当初目的とした研究目的(社会主義の維持・崩壊と市場経済化過程におけるミクロ的合意システムの解明)が十分に達成されたとはいえないが,しかし生活史資料を経済分析に用いるという萌芽的研究手法の有用性が確認できた。その意味で,萌芽的研究としての本研究は成功したといえよう。本研究手法は,経済学だけでなく,法学研究・社会学研究など幅広い分野に応用が可能であると考えている。
|