本年度は社史を中心に、明治期から大正期にかけて、各企業がいつ、いかなる事情で洋式複式簿記を採用したかを調べた。約350社の社史を網羅的に調べたが、簿記会計について記述してある社史は少なく、今までのところ本研究に利用できる社史は30社程度しか発見し得ていない。今後もさらに社史の調査を進めていく予定である。 簿記会計の記述のある社史でも、その叙述が簡略なことが多い。それでも、調査の結果、和式帳合から西洋式簿記への転換は、江戸時代から続く老舗企業では大企業でも20世紀に入ってからの場合が珍らしくないことがわかった。また、明治以後に設立された企業でも、在来産業では同様のことがいえる。洋式簿記への転換は、別家制度の廃止などの経営改革の一環である場合が多いだろうとの仮説も、ほぼ裏付けがとれた。それらの研究成果の一部は、『Japanese Business Success』や『日本経営史 1』の中に取り入れた。 社史の調査から、内部資料の必要性を痛感し、月桂冠(株)資料室に江戸時代から明治の帳簿史料がかなり整理されていることがわかり、ケース・スタディを試みるために調査に行った。ただ、遠隔地にあるために、今のところ十分な調査ができていない。今後、月桂冠の事例研究を深めていくとともに、それ以外の企業の内部資料を調べていきたい。
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