研究概要 |
細胞膜の放射線損傷の初期過程を追跡するには,細胞膜を大量にしかも揃えて測定することが必要であるが,それは困難である.ところが,アルキルアンモニウム塩化カドミウムは大きな単結晶を作成でき,しかも脂質二重膜と類似のアルキルアンモニウムイオンを有し,細胞膜のモデル物質として利用できる.その部分に損傷を多数作り,それを電子スピン共鳴(ESR)によって検出し,細胞膜の放射線による初期損傷の受け方を調べた. エックス線及びガンマー線を液体窒素温度で照射した上記の結晶には,塩化カドミウム部分に二原子分子イオン(Cl_2^-)ができ,そのESRシグナルがアルキルアンモニウムイオン部分にできる損傷と重なって複雑になる.しかし温度を200K以上にするとこの二原子分子イオンのESRシグナルが消失し,アルキルアンモニウムイオン部分にできる損傷のESRシグナルのみが検出できた.結晶の方位角を変えながら測定したところ,アンモニウム基から水素核(プロトン)が取れたラディカルが損傷としてできることが判った.つまりアルキル基の様な強い共有結合の部分ではなくて,イオン化したアンモニウム基部分が放射線損傷を受けやすいことが判った.このようなラディカルは膜の中では,脂質ラディカルとなり隣接した脂質と置換しながら,あるいは隣接した脂質のアンモニウム基のプロトン移動によってラディカル状態が膜中を移動し,膜中のイオンポンプ蛋白質に到達すると考えられる.そしてその脂質ラディカルはイオンポンプ蛋白質と反応してその立体構造を歪める.その結果,イオンポンプとしての機能に障害を起すものと考えられる.放射線を受ける面積は,膜の部分がイオンポンプの部分に比して大きいので,膜が受ける放射線損傷は重要である.
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