研究概要 |
報告者が独自に導出した三種の設計指針に従い高い臨界温度を持ち新規有機超伝導体の開拓を試みた。 1.陰イオン層の構造を制御する事によりk-型ドナー充填様式を持ちBEDT-TTF(ET)錯体を開拓する。:NO_3^-を水分子で架橋した陰イオン層を持つ錯体の作成を試み(ET)_2(NO_3)(H_2O)_2を得た。この錯体は当初の予想とは異なる結晶構造(θ-型)を持つ半導体であったが、ET系では希なMott型半導体であると推定された。伝導層内でのトナー分子間相互作用を小さくし、Tcを向上させると言う指針に照らすと興味ある塩である。 2.伝導層間の相互作用を大きくする。:分子末端に迄大きなπ-電子密度を持つNi(tdas)_2イオンを用いた錯体作成を行った。各種TTF誘導体の中でOMTTFはこの金属-配位子イオンを成分とする初めての結晶性錯体を与えた。物性的には絶縁体であり、この錯体中で各成分は完全にイオン化した状態(Ni(tdas)_2は-2価)にあった。一方、結晶構造は金属-ジチオシュウ酸系のTTF誘導体との錯体と類似しており、その生成機構に興味がもたれる。 3.分厚い伝導層を構築し、伝導層の有効体積を増大させる:新規導電性成分分子として、1,4-ジチインのb,e位にTTFがひとつづつ縮環した分子(BTDT)の内、4個の水素が総て同じ置換基で置換された、対称置換BTDTの一般的合成方法を探索した。重要中間体である、ふたつの1,3-dithiole-2-thioneが縮環した1,4-ジチインを再現性良く合成する経路を開拓した。現在、これから導かれる最終目的生成物の確認を行っている。 その他に、形式電荷が一定で大きさの異なる一連の有機陰イオン、{RO-C〔C(CN)_2〕_2}^-(R=直鎖アルキル基)を合成し、これらを対イオンとした陽イオンラジカル塩の作成と、それらの構造・物性の検討を行った。また、金属的錯体を与える能力の大きなBEDO-TTFについて、このドナーが高酸化状態にある錯体を作成した。
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