研究概要 |
高強度レーザーの発展に伴い、原子内の静電場の大きさに近い強度の電場がレーザーによって作られるようになってきた。この高強度レーザー場中での原子の振る舞いを調べる研究が多く行われている。しかし、原子核に対しては、上記のレーザー場の強度はまだ無視できる程度に小さい。そこで、レーザー場による原子核への直接の影響ではなく、軌道電子を媒介としての影響について考えた。即ち、高強度レーザー場に置かれた原子の軌道電子は、その軌道が定常状態のものから大きく歪められ、やがて電離し離れて行く。この電離が起こるまでの間に、電子が原子核とのクーロン相互作用によりレーザー場のエネルギーを核に受け渡し原子核を励起する過程を考えた。 この過程の理論計算を困難にしている原因は、原子核と原子核系の2つの系を考えなければならないことと、核励起には多くの光子の吸収が必要なことである。そこで、計算の簡略化のためにSpace Translation Transformationの手法を用いた方法を提案した。この方法は、レーザーの周波数に対応した加速度系へ座標変換することによって、ハミルトニアンを簡単化するものであり、この方法を用いれば確率振幅をS-matrix形式の一次の項により比較的容易に計算できる。しかし、この計算方法の適用範囲は、レーザー場の強度が比較的弱い場合に限られる。この方法を用いた計算プログラムを作成し、高強度レーバー場での原子核の励起確率の計算の可能性を検討した。核励起の例として、^<19>FのE2遷移(1/2+→5/2+,190keV)を取りあげ,高強度レーザー場中での遷移確率を、レーザーの強度及び周波数をパラメーターとして計算した。
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