研究概要 |
高等動物における細胞内タンパク質分解の分子的理解に向けて、申請者らはその主要経路と考えられる自食作用に焦点を絞り、その現象を再現するin vitro系の開発を目指している。これまで溶血毒素S.anreus α-トキシンを用いて細胞膜透過処理(permeabilization)したセミインタクト肝細胞を作り、第一段階である自食作用胞形成を含む自食作用系タンパク質分解(antophagic proteolysis)を再現することに成功した。しかしながら、α-トキシン処理細胞ではタンパク質など高分子の細胞内外での交換が不可能である。そこで、本研究課題ではさらに一歩進め、これを可能とするセミインタクト細胞を別の細菌毒素ストレプトリジン-O(SLO)を用いて作り上げることを目的とした。本年度得られた結果を以下に述べる。得られたSLO処理肝細胞はリソソームなどの無傷性が保たれ、細胞膜のみにタンパク質を透過させる穴があいていることが認められた。このSLO細胞でのタンパク質分解、つまりバリンの放出はATPとサイトゾルの添加により増加した。リソソーム機能を阻害するクロロキンが約60%阻害することから、明らかにリソソーム系タンパク質分解の存在が示されたが、第一段階の自食作用胞形成が起こらず、完全な自食作用が維持されていないことが示唆された。つまり、SLO処理の時点で形成されていた作用胞内のタンパク質が分解していると考えられた。興味深いことにGTP結合タンパク質の関与を示唆する阻害剤GTP_γS,GMP-PNPがATP,サイトゾルの共存下でのみこのタンパク質分解を阻害した。以上の結果は、SLO処理細胞は自食作用の第二段階以降、つまり自食作用胞の成熟過程を維持していることを示しており、α-トキシン細胞とは異なるin vitro系になりうることが判明した。本結果は第10回細胞内蛋白質分解に関する国際会議(東京)で発表した。
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