1)胎児期におけるインヒビンの発現 雄ラットでは、雌とは異なり、胎齢16日の末梢血液中にラジオイムノアッセイ法で測定可能なインヒビンが検出された。さらに、免疫組織化学的染色法により、精巣では精索が形成され始める胎齢14日から、間質細胞にインヒビン活性が認められた。インヒビンの陽性反応はその後も間質細胞に認められたが、妊娠末期の胎齢19日になると精細管内のセルトリ細胞にも陽性反応が認められるようになった。出生後は、間質の陽性反応は減少したが、セルトリ細胞の陽性反応は増強し、10日齢ことには精子形成の進行に応じて精細管の断面毎に陽性反応の強度差が認められた。精巣のホモジネート中のインヒビン生物活性を測定したところ、胎児期の精巣では検出されなかったが、出生期以降なインヒビン活性が認められた。イムノプロッティング法を用いて、精巣中インヒビンの性状を調べたところ、胎児精巣中には32kDaのインヒビンは検出されず、約46kDaのインヒビンα鎖前駆体と思われる物質が認められた。 インヒビンの発現における精細胞の関与を検討するために、抗腫瘍薬のひとつであるブルスファンを妊娠13日の母ラットに投与し、精巣中に精原細胞を欠くラットを作製した。精細胞を欠如した胎児精巣では、間質におけるインヒビンの免疫組織化学的染色による陽性反応が正常対照群より増強した。 2)胎児精巣の器官培養 実体顕微鏡下で血管走行を指標にして、精細管形成前の胎齢13日に精巣原器を同定し器官培養した。基礎培地で培養すると4日後には胎内における発育と同様の精細管形成が認められた。この培養方法を用いて、ウシ卵胞液から得たインヒビンおよびその関連物質の精細管形成過程に対する作用を吟味した。また、インヒビンα鎖に対して作成した抗体を添加し、その影響を観察した。その結果、32kDaの純粋なインヒビンおよびインヒビンα鎖に対する抗体では、対照群と同様の精細管の形成が認められた。しかし、部分精製したインヒビン分画の添加では、多くの精細管中から精細胞が消失した。インヒビンα鎖関連物質が精細管形成時に間質で発現し、何れかの調節を行っているものと推察された。
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