研究概要 |
哺乳動物の生物時計の中枢である視交叉上核(SCN)での分子機構の解明をSCNで産生されるペプタイドの転写機構に求めるのに先立ち,SCNへの入出力関係をしらべた.網膜からの光情報はSCNの腹外側野に入力しこの部位にはVIP,Gastrin-releasing peptide(GRP)を含有する神経細胞が多く分布している.これらのペプタイドはそれぞれ活動の自由継続リズムに光と同様な位相反応を示すことから,時刻決定に関与すると考えられるが,SCN中の含量はVIPとGRPとでは光反応とは殆ど逆になることを確認した.さらに,SCNからの出力に関係すると考えられているArg-vasopressin(AVP)に対する効果はスライスカルチャーを用いたvitroの系ではVIPはAVP分泌を増加させるがGRPは抑制的に作用することがみとめられた.従って,VIPとGRPはSCN内でリズム形成に複雑に関係していると考えられる.一方,SCNへは外側膝状体からと縫線核からの入力があり,縫線核からの5-HTは網膜からの光入力に関与するglutamateの分泌様式を修飾することをバイオセンサーを用いた実時間での測定で確認した.さらに,時計の構成要因としてfeed-back系が必須であるが,SCNのほとんど全ての神経細胞は抑制性の伝達物質であるGABAを共存させている.このGABAはスライスカルチャー系ではAVP分泌作用を変化させる可能性があることを発見した.以上の結果はSCN内外での時計の構成要素の相互作用としてとらえたものであり,概日リズムは単細胞生物からヒトを含めた哺乳動物まで共通する性質で,実際にショウジョウバエの時計遺伝子の一つであるperと相同性のある蛋白質の同定も報告されている.また,SCNの分散培養系でSCNの個々の神経細胞が別個に概日振動をしていることが報告されている.従って,今後SCNに存在するペプタイドの細胞内での合成,分解の分子機構を解明する予定である.
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