研究概要 |
腫瘍マーカーグルタチオントランスフェラーゼP(GS-P)はラット肝発癌過程の初期から特異的に強く発現される薬剤代謝酵素で有用な腫瘍マーカーとして利用されている。この遺伝子の肝発癌に伴う発現調節機構を調べ以下の結果を得た。1) Jun, Fosおよびそれらの関連因子によるGST-P遺伝子発現の調節: GST-P遺伝子の転写制御領域にはjun, fosおよびそれらの関連遺伝子産物が結合して転写を活性化するTREが複数存在する。GST-P遺伝子がJunによって活性化されることについては既に報告した。本研究ではさらにJun, Fosの関連遺伝子について調べた結果、すべての関連遺伝子産物がGST-P転写制御領域に結合するが、FosBは転写を抑制する事等が明らかとなった。2)ペロキシソーム増殖剤およびその受容体によるGST-P遺伝子の発現抑制機構: GST-P遺伝子を活性化する転写因子Junがペロキシソーム増殖剤受容体(PPAR)と相互作用し、その転写活性化機能を阻害されることが明らかとなった。PPARは肝前癌病変、過形成結節でその発現が著明に減少し、GST-Pのこの時期の発現に関与しているものと思われる。3)転写因子Mafについて:癌遺伝子産物Mafは、Junとよく似た結合配列を認識し転写を活性化する。GST-P遺伝子にMaf結合配列が存在することから、ラットより2つのmaf関連遺伝子をクローンしGST-P遺伝子の発現に関与するかについて検討した。GST-Pが強く発現する肝前癌病変でもmafの発現は変化せず、直接の関与は考えにくいが、幾つかのMafの結合配列DNAに結合する活性が、肝癌細胞の核抽出液に見られる。さらにドミナントネガデイブ作用を持つと考えられるsmall maf遺伝子を細胞に導入するとGST-P遺伝子の発現が強く抑えられることなどからMafによく似た結合配列を認識する転写因子の存在が強く示唆された。
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