研究概要 |
乳幼児における肺における肺神経内分泌細胞(PNEC)の分布密度の変化とSIDSとの関連を明らかにすることを目的として、SIDS症例と同月令の対照例との間で、乳児の細気管支領域におけるPNECの分布を比較検討した。 乳児におけるPNECの分布について、剖検肺標本を用いて免疫組織化学的に検討した。対象は厚生省乳児突然死研究班の定義を満たす乳幼児突然死症候群(SIDS)の14例と、他の原因で死亡した乳児10例とした。対照群からは先天性疾患を除外した。PNECの同定には、chromogranin A (CGA), calcitonin (CT)および gastrin-releasing peptide (GRP)に対する抗体を用いて免疫組織染色を行った。 各症例につき,各ペプチド陽性細胞率(細気管支粘膜上皮細胞数に対する陽性細胞数の率)を算出し、対照例の各ペプチド陽性PNEC数の成長に伴う変化を検討した。 1〜8ヶ月児においてSIDS例と対照例の各陽性細胞率を比較検討したところ、CGA陽性細胞率はSIDS例で高値を示したが、CT陽性細胞率はSIDS例では低値を示し、特に年長群のSIDS例で著明であった。CGA陽性PNECの分布は生後1年間ほぼ一定であったが、CT・GRP陽性PNECは生後次第に減少する傾向が認められた。連続切片における染色の結果、各抗体に対する陽性像はほぼ同一細胞に認められたが、GRP・CTいずれかが陽性であってもCGA陽性像を呈した。また、SIDSと対照群の間には、これらの分析における明らかな差はみられなかった。これまでCGA陽性PNEC分布の乳幼児における変化については報告されていないが、CGAはPNECの同定に有用なマーカーであると思われた。一般にPNECのペプチド産生は乳児の成長とともに減少するが、その種類によって減少する時期が異なることがわかった。SIDS例においてGRP陽性PNECの退縮遅延、CGA陽性PNECの増加、CT陽性数の低下とが起こっていることが明らかになり、肺末梢の呼吸および循環機能調節の微妙なアンバランスがSIDSの発症機序に関与している可能性が示唆された。
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