研究概要 |
慢性肝疾患から肝癌と診断された61例中20例において,肝癌の抗核抗体の対応抗原として新たにDNA topoisomeraseIIが同定された。また,もう一つの肝癌の抗核抗体の対応抗原として核小体線維状成分である120キロダルトン蛋白が同定された。さらに分子レベルでの性状を明らかにするため,現在,患者血清を用いてcDNA expression libraryのimmunoscreeningを施行中である。 587例の慢性肝疾患患者によるprospective studyにおいて,6例に抗核抗体の陽性化ないし抗体価の上昇,あるいは特異性の変化を認めた。うち肝細胞癌と診断された症例が2例,転移性肝癌と診断された症例が1例,およびインターフェロン投与例が2例であった。肝切除術を施行された肝癌の1例では、術後一過性に抗核抗体が陰性化した。インターフェロン投与例では,インターフェロン中止後抗核抗体は陰性化した。慢性肝疾患経過観察中に認められる抗核抗体の変化は癌の発症、インターフェロン投与に関連のあることが示唆された。 肝癌の自己抗原と慢性肝疾患の自己抗原との違いを検討するため,肝癌と診断される以前の慢性肝疾患患者血清を用いて解析を行なったところ,C型慢性肝疾患3例に共通して非筋細胞に存在するミオシンマイクロフィラメントのH鎖に対する抗体の存在が証明された。一方,肝癌2例に腫瘍抑制遺伝子産物p53に対する抗体の存在を認めた。このように肝癌の存在の有無により自己抗原のスペクトラムに相違のあることが示唆された。
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