研究概要 |
肝硬変における偽小葉の形成は、形態形成を司る遺伝子を制御する転写因子の異常とも考えられる。Butyrateは肝発生や再生時の転写因子系に変化を与えることが推測されている。肝は胎生期〜新生児期にAFP→アルブミン、正常肝〜肝硬変〜肝癌では逆にアルブミン→AFPへの遺伝子発現のスイッチングが生じる。そこでButyrateにて肝癌の転写調節領域は細胞株を処理するとAFPのプロモーター活性を下げ、Albuminのプロモーター活性を上げ、これらの転写領域はCCAATボックスにあると考えられた(Gastroenterlogy 107:499-504,1994)。このことは肝硬変進展抑制遺伝子群の中にはButyrateにより活性化され、C/EBPの抑制を受けているものが存在する可能性が考えられた。次に肝再生をはじめとする組織の再生に、サイトカインの一つであるPTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)が、細胞の運動能や血管新生さらにアポトーシスを介して関与していることを見出した(Endocrinology 134:1936-1942,1994.J.Pathology 175:227-236,1995.Cancer Res 56:77-86,1996.Anterioscler Throm Vascul Biol 1996 in press)。そこで、PTHrP受容体シグナルの肝における意義を検討する目的でPTHrP産生腫瘍をラットの皮下に移植すると移植後3ヶ月で肝線維症を生じ、4ヶ月で高率に肝癌を併発することが判明した(未発表データ)。このラットは特に化学発癌物質を使用しておらず、いわゆるサイトカイン誘発性の肝硬変・肝癌と考えられ、ヒトのウイルス性肝硬変もリンパ球より産生されるサイトカインが発症の原因と仮定するならば、この実験を用いた肝形態形成系遺伝子の研究は有意義であると思われ現在さらに探究中である。
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