研究概要 |
平成6-7年度の継続的研究により、遅発性神経細胞死の発症機序に関しては選択的脆弱細胞群とくに海馬CA1領域の神経細胞群において、一過性脳虚血後の極めて早期から細胞内のミトコンドリアにあるミトコンドリア遺伝子の発現が選択的にしかも進行性に低下してゆくことが突き止められた。これと対照的に、細胞内の核に存在するいわゆる核遺伝子の発現は細胞死が組織学的に明らかとなる直前まで正常に機能していることも明らかにされた。ミトコンドリアは細胞の主たるエネルギー産生器官であり、この遺伝子発現の進行性の異常は細胞のエネルギー産生の進行性の障害をもたらし、結果的に細胞死をもたらすものと推定された。また新たに行った実験にてミトコンドリア輸送を司るキネシンやダイニンなどのいわゆるmotor蛋白の虚血早期からの免疫原性低下を確認した。このような平成7年度までの研究の進展状況により、本研究代表者の阿部は選択的脆弱細胞群におけるミトコンドリア遺伝子発現異常による進行性のエネルギー産生障害が「細胞死の遅発性」に深く関わっていることを明らかし、研究成果の一部はすでに学術専門誌に発表されつつあったが(Abe et al., 1993, 1994)、平成7年にいわゆる「ミトコンドリア仮説」として包括的な概念を提唱するに至った(Abe et al., 1995)。このように本研究においては、実験モデル動物を用いて最新の分子生物学的手法、組織化学的および免疫組織化学的手法を用いて虚血脆弱細胞におけるミトコンドリア遺伝子発現の選択的異常について脳組織内での発現の相違を各細胞(さらにそのcompartment)ごとに遺伝子レベルと蛋白レベルで同時に総合的に解明することができ、当初の目的は達成できたものと考えられる。
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