研究概要 |
骨髄移植・実質臓器の移植においては術後感染症は直接死因ともなるので、極めて重要な問題である。その中でもサイトメガロウイルス(CMV)感染症は発症頻度・重症度から臨床上特に問題である。従来よりCMV感染症は移植後の免疫抑制剤使用時の患者やCD4陽性T細胞の選択減少を特徴とするAIDS患者において特に問題とされてきた。しかし同じCMV感染でも移植患者では肺病変が主体であり、AIDS患者では腸炎・網膜炎などが主体であり病状が異なり(Annal.Int.Med.,Vol.108,585,1988)、後者が抗ウイルス剤(ガンシクロビル)によく反応するのに対し、前者はその有効性は明らかでないことから(Blood,Vol.83,2392,1994)拒絶反応・GVHにより免疫系が修飾されている移植患者のCMV病因と汎免疫系の不全により発症するCMVとは病因が異なり、従って治療法も異なることが示唆されていた。平成5年までの研究でマウスサイトメガロウイルス(MCMV)を7週齢BALB/cマウスに感染させると、感染早期には種々の臓器でMCMVは検出されるが、感染4週後にはMCMVは唾液腺にのみ限局し他の臓器では検出されないことを見いだした。更に、この唾液腺にのみウイルスが存在するMCMV持続感染マウスに抗CD3モノクローナル抗体を1回のみ投与し、in vivoにおいて感染宿主T細胞を活性化させると、投与24-48時間後にマウスは抗体投与量に依存して死亡することを観察した。これを更に進め、平成6年度には以下のことを明らかにした。 (1)CMV感染により宿主T細胞系がプライムされ、二次刺激に対してsusceptiveになっており、末梢T細胞の前駆細胞である胸腺細胞はアポトーシス準備状態に入っていた(J.Virol.,Vol.68,No.7,p.4322-4388,1994)。 (2)CMVによる肺病変(間質性肺炎)はCMV自体によるものではなく、CMVによりプライムされた宿主T細胞由来のサイトカイン群(IL-2,TNF-α,IL-6)が関与している(J.Clin.Invest.,Vol.94.,No.9,p.1019-1025,1994)。 (3)CMV肺炎の成立はCMVによる宿主T細胞のプライムからなるinduction phaseとサイトカイン群の放出からなるeffector phaseの2つからなり、induction phaseでは抗ウイルス剤、effector phaseではコルチコステロイド剤が有効である(Transplant.Proc.in press)。
|