研究概要 |
肩峰下impingementに伴う腱内の生化学的環境の変化が腱変性を助長すると考え、Wister系ラット、左アキレス腱14ヶを繰り返し圧迫してその血流量を低下させ、幼若群(8週令)、成熟群(24週令)におけるNO濃度を測定した。また、Impingement症候群手術例の棘上筋腱6ヶ(41-53歳:平均47.9歳)、剖検棘上筋腱9ヶ(21-45歳:平均37.1歳)の、前方、中央及び後方部の近、遠位部計6ヶ所で酸素分圧(PO_2)、一酸化窒素(NO)濃度を測定、比較した。測定にはDigital PO_2モニタ(POG-203,Unique Medical社)、NOモニタ(POG-202US,Unique Medical社)を用い、臨床手術例ではlaser-Doppler Flowmetry (ALF21N,Advance社)にて血流量をも同調的に計測した。術中上腕骨90°外転前後、acromioplasty施行前後、剖検例ではF.P.meterによる圧迫(133g/cm^2)前後の各値の変化を検討した。 成熟群ラットアキレス腱は加齢変性を反映してより高濃度のNOを含有していた一方、圧迫前後の格差は幼若群で大きかったことはそのNO産生能の高さを示唆するものと思われた。棘上筋腱の血流量は90°外転位で低下後、上肢を下降させると早期に正常化した。PO_2は上肢下降直後から低下し、30分以上の低酸素状態に陥った。NOは外転直後に増加して約3.0μMに達したのち低下し、上肢を下降させると再度上昇した。各測定点のピークNOは平均2.7μMで有意差はなかった。これらは腱内の生化学的環境に対する肩峰下Impingementの影響を証明している反面、腱内の虚血・再潅流がいかに影響しているか、については明らかにできなかった。剖検腱内PO_2が臨床例と近似して圧迫除去直後から低下したことにより、腱内血流量変化とは関係のない、組織液拡散などによる低酸素発生機序が示唆されたものの、NOはほとんど検出できなかった。Acromioplasty施行後のPO_2がその施行前とは異なり上肢下降後も変化しなかったことで、その手術効果が腱内PO_2の維持に起因すると思われた。
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