研究概要 |
当該資料である上杉宋版『史記』(現国立歴史民俗博物館所蔵)の扁鵲倉公伝部分におびただしく書き込まれた室町時代禅僧・月舟寿桂の主記(難解な筆写体)を解読して活字化し,かつそれを解析して考察を加えるのが本研究のねらいである。 解読け研究および活字化(パソコン入力)作業は順調に進み,随所に難読文字はあったものの,検討を重ねた結果,ほぼすべての文字(約15万字)について釈読しえた。この釈読部分については,原本の宋版部分を影印し,それに活字印字化した月舟寿桂注を原本と同体裁に貼り込むという難作業を行い,相当の労力と日数をかけて完了した。 月舟寿桂注に対する考察(研究)としては,『日本医史学雑誌』に研究協力者も含めて6篇の論考を発表し,これを月舟寿桂注釈文とともに研究成果報告書に収録した(論考篇)。月舟寿桂注の有する限りない歴史的価値の一端を明らかにしたに過ぎないが,今後の研究の方向性は充分に示したと考える。 さらに,15万字に及ぶ月舟寿桂注に関して,今後の研究上,検索を容易にするため,書名人名等牽引を作成し,研究成果報告書に収録した。本牽引は月舟寿桂がいかなる文献を披見し駆使したかを示すもので,当時の中国医学文化の受容情況と知識水準を研究するうえでかけがえのない資料となるのであろう。また,研究成果報告書には幕末刊の存誠薬室影宋本『扁鵲倉公伝』も縮印収録し,それに対する一字牽引も作成して添付して,今後の研究の便をはかった。 以上のごとく,本研究は当初の計画どおり進行し,予想をはるかに上回る成果を得ることができた。その成果を収録した研究成果報告書は,室町時代の日本医学文化を研究するうえで,今後の研究者を大いに裨益するものと確信する。
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