緑色光合成細菌の膜外アンテナ部=クロロゾーム中では、バクテリオクロロフィル-cが自己集合することによってアンテナ色素部を形成し、そのまわりをリン脂質の一分子膜が取り囲んでいる。このモデル系構築にあたって1)クロロフィル-aを化学的に修飾することによって、マグネシウムや亜鉛を中心金属とするヒドロキシルメチル基を有するクロリン錯体を新規に合成し、アンテナ色素のモデル分子に、2)種々の界面活性剤をリン脂質の代わりに用いた。このようなモデル化合物を水中に分散させることによって人工クロロゾームを構築させ、ゲルクロマトグラフィーによって精製した。卵レシチンを用いたときには、可視および円二色性吸収スペクトルが、生体系と酷似しており、本人工クロロゾームが生体系のクロロゾームの良いモデルとなることが判明した。また、レシチン濃度を高めると、生体系とは異なるスペクトルを与えるが、超音波照射や温度上昇によって、生体系に近いスペクトルに変化することがわかった。特に、緑色光合成細菌の成育する50〜60℃においてこの変化が顕著であることから、天然クロロゾームにおいてアンテナ色素分子の自己会合体が安定な超分子構造を形成していることが想像される。さらに、このような安全な会合体は準安定な会合体よりも蛍光発光量が大きく、エネルギー移動媒体として優れていることが判明した。 このような人工クロロゾーム系に、エネルギー受容体となりうるバクテイオクロリン類を添加して、エネルギーの授受を検討したところ、十分な濃度のバクテイオクロリンを添加したにもかかわらず、ほとんどエネルギー移動は観測されなかった。それぞれの色素間の配置が重要であり、生体系ではそのことがなんらかの方法で達成されていることが示唆された。 また、今回調製した人工クロロゾーム系は、光に対する安定性が単量体のモデル分子に比べて極めて優れており、生体系が自己会合体によって光集光アンテナ部を形成している一つの理由がここにあることも判明した。
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