研究概要 |
ヒトの振戦現象は医学的にもパーキンソン氏病や小脳疾患の診断などに必要であるだけでなく、健常人においても熔接作業や半導体製作時の精密動作に影響を与えるため人間工学的にも重要である。しかし生理的振戦と称される健常人の振戦は、振戦強度が病理的振戦の1000分の1と小さいため計測が困難であるばかりでなく、日常生活では常時出現しないため従来定量的な研究は困難であった。そのため振戦の誘発方法として運動や物理的負荷を被験者に与える研究方法が採用されてきた。本研究では特に微小な振戦を検出するシステムを開発し、被験者に0から5Kgの物理的負荷を与え、腕の屈伸運動を命じた時に生じる負荷振戦に注目しその振戦周波数と振戦強度の変化を計測した。被験者としては22歳から26歳の7名の健康な大学生(男子6名女子1名)を用い、全員にOKg,1Kg,2Kg,3Kg,5Kgの鉄アレイを右手に持たせて肘を机上に置き、試行前・20回屈伸後・40回屈伸後・60回屈伸後の振戦を母指基部に粘着テープで固定した加速度計によって測定した。二段の増幅を経た加速度波形はデジタルオシロスコープに取り込みMacintochIIci内でデータ解析ソフトMatLabを用いて解析された。その結果、従来の理論的シミュレーションにおいて予測されていたように、振戦周波数は負荷とともに減少し、振戦強度は軽度上昇すること等を確認した。パーキンソン病患者および本態性振戦患者に対しても患者が耐えられるかぎりの物理的負荷を与える負荷実験を行ない、ほぼ同様の結果を得た。また我々が提案してきた主要振戦周波数を指標とすることにより、パーキンソン振戦とそれ以外の振戦とが簡便に鑑別診断可能であることが示された。本手法を精緻化することにより今後は生理的振戦・本態性振戦・小脳性振戦・疲労振戦などの鑑別方法へと発展が期待されている。
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