1.研究成果は、「労働力輸出と送金-パキスタンの事例をめぐって」と題する論文として公表した。その概要は以下のとおりである。パキスタンの労働力輸出は、なによりもまず、貧困世帯の生活水準を高めた。渡航ルートの分散性は、斡旋手数料の相対的な低位を介して、未開発地域の不熟練労働者に渡航の道を開放した。受け入れ国における在留管理の徹底と、送出国の経済水準を基準とした資金決定のあり方とは、国際労働力移動の短期還流性を基礎づけた。労働力輸出の利益を亨受する貧困世帯の裾野はそれによってさらに拡大した。 パキスタンの国内労働市場と国民経済とは、労働力輸出から間接的にメリットを引き出した。国内労働市場への負担が軽減されることによって、実質資金の上昇は、建設業ばかりでなく、農業部門にもおよんだ。国民経済は、送金外貨から利益を得た。送金額は、国内総生産の10%を占め、輸出額の1.2倍に達した。送金の経済成長率への寄与率は、最低でも4分の1であり、3分の2を占めた時期もある。しかしながらルピーの過大評価のため、送金の4割はフンディと呼ばれる非公式ルートに流れている。送金の経済効果を高めるためには、公定レートの切り下げを断行せざるをえない。それゆえ開発戦略としても、貿易自由化をつうじた輸出志向工業化にむかわざるをえない。労働力輸出を代替するためにではなく、それを経済的により効率化するために、変動相場制への移行と貿易自由化とが要請されているのである。 2.フイリピンの労働力輸出にかんする研究成果は、まだ公表の段階まで到達していない。フイリピンの労働力輸出の特殊性をパキスタンとの対比のなかで解明することにより、アジアにおける国際労働力移動の多様な個性が浮き彫りにされるであろう。
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