研究概要 |
1.奈良〜平安時代の、主成分として鉛を含む緑釉陶器を対象に以下の研究を行い成果をあげた。(1)乾式で迅速かつ低ブランクで鉛を分離し表面電離型質量分析装置によって測定する「高周波加熱-鉛同位体比測定法」を新たに開発した。(2)この方法で緑釉部分の解析を行った結果、鉛の同位対比は統計的に同一の値を示し、また皇朝十二銭に含まれる鉛の数値とも一致した。すなわち、これらの鉛は単一の鉱山から採取され供給されていた可能性が高いことがわかった。(3)皇朝十二銭の原料の銅を供給していた山口県美袮群美東町の長登銅山では、鉛精錬の遺跡、遺物も検出されている。ここで出土した鉛塊、鉛精錬スラグの鉛同位対比を測定したところ、緑釉、皇朝十二銭のそれと一致し、ここが原料鉛の供給地であった可能性が高いことがわかった。古代歴史資料の原料鉱山が特定された例はこれまでほとんどない。 2.江戸時代の施釉陶器(唐津、美濃、瀬戸)を対象に以下の研究を行い成果をあげた。(1)瀬戸・美濃焼と唐津焼の胎土が、主成分元素(Si,Al,K,Feなど)でグル-ピングできることがわかった。(2)「美濃唐津」(唐津焼に似せて作った美濃焼)の胎土は、鉄の濃度のみが唐津焼の範囲に入り、カリウムなど他の主成分元素は美濃焼の範囲にはいることがわかった。色調を唐津焼に似せるために鉄分を多くしているものと考えられる。(3)灰釉系、長石釉を対象に3地域における釉薬の成分の違いを検討し、Fe,Ca,Kの濃度に顕著な相違を見出した。以上の測定はX線マイクロアナライザー付走査型電子顕微鏡によって実施した。(4)色彩輝度計によって、それぞれ鉄、銅を発色の要因とする、鉄釉および緑釉の分析を行い、発色要因元素濃度と色彩分析の顕色系の表色値であるL^*a^*b^*の数値との間に相関を認めた。また、光電子分光分析装置により、前者では3価の鉄、後者は2価の銅が発色を担っていることがわかった。
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