研究概要 |
1・漆膜面試料(手坂)の作成 古文所等で確認された漆工材料の中から、(A)乾性油,(B)山芋・蓮根の汁液(湯煎後)=澱粉質,(C)フノリ・寒天等の紅藻(海草)類=アルギン酸質,(D)柿渋=タンニン,(E)膠=タンパク質、をそれぞれ生漆に混入してガラス板・ヒノキ板に塗布・硬化させた。その結果、(1)漆膜面の固化速度はガラス板よりヒノキ板へ塗布した試料のほうが速い。(2)乾性油、澱粉質・膠は生漆への混入が容易であるが、固化後の状態が良好な前二者に比較して膠は固化後漆層と膠層が分離固化し脆弱である。(3)フノリ・柿渋と生漆とは馴染みにくくそのままでは液は分離状態にある。これに乾性油を加えると混入拡散が可能となる。しかし膜面固化後の状態が良好なフノリとは異なり柿渋は固化自体不良である。(4)寒天液は生漆に混入直後固化してしまい混入拡散作業が困難である。等の知見を得た。 2・増量剤を混入した漆膜面の性質 (1)固化後の膜面の色調や光沢は、増量剤として比較的取扱いが容易な澱粉質・フノリを混入した試料は混入比率の多少に関わらず黒色-暗褐色を呈し、生漆とほぼ同様の光沢である。乾性油を混入した試料(80%混入まで可能)の場合、混入比率が高いほど膜面の透明感や光沢が強い。(2)FT-IR分析の結果、乾性油=2930,2850,1740cm^<-1>付近に強い吸収、澱粉質・フノリ=1720cm^<-1>付近の漆に顕著な吸収より1630cm^<-1>付近の吸収の方が強い、等の特徴がそれぞれ混入比率が高いほど顕著に確認される。(3)キシレン・アセトン等有機溶剤で乾性油混入漆膜面を抽出した結果、油分溶出による膜面劣化(カ-ル)が確認された。 3.実際の出土漆膜面資料との比較作業では、仙台北目城跡(17世紀初頭)、江戸城和田倉門跡(18世紀代)の資料に乾性油・澱粉質などの増量剤混入の可能性が確認された。
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