研究概要 |
1.構造の異なる3種類のチロシンりん酸化阻害剤、methyl 2,5-dihydroxycinnamate,genistein,herbimycin AはPDGFによる平滑筋の阻害を異なる程度に阻害した。MCが遊走を最も強く阻害し、herbimycin Aはほとんど阻害しなかった。遊走阻害の機序を検討したが、その一つは細胞骨格であるストレス ファイバーと微小管の再構成が阻害されることによると考えられた。また細胞辺縁のチロシンりん酸化が阻害されることが明らかとなった。 2.上記の3種類のチロシンキナーゼ阻害剤は血管平滑筋細胞のDNA合成を阻害した。各細胞周期にたいする影響を調べたところG1,S,M期で細胞周期の進行を阻害する事が判った。当初の予想に反して、PDGFレセプターキナーゼそのものはいずれの阻害剤によっても阻害されなかった。またM期阻害の機序のひとつはmitotic spindleの形成阻害によると考えられた。 3.PDGFで誘導される細胞遊走に必須であると報告されていた、 phosphatidyl inositol 3-kinase(PI3K)の特異的阻害剤を用いて、血管平滑筋の細胞遊走にはPI3Kが関与していないことを見いだした。この所見から同じPDGFによる細胞遊走であっても、細胞の種類により異なる細胞内情報伝達機構が働いていることが考えられた。情報伝達機構を標的とした循環器疾患治療を考える上で重要な所見である。 4.増殖を抑制するが遊走は抑制しないherbimycin Aを用いて、herbimycin Aにより抑制されるsrc kinaseは細胞遊走に関係しないことを明らかにした。src kinaseの細胞遊走における役割をさらに検討するため、src kinaseを抑制するキナーゼであるCSKを欠損する細胞を用いてPDGFによる細胞増殖、遊走を調べた。その結果、CSK欠損細胞はPDGF刺激にるDNA合成は抑制されていたが、PDGFによる遊走は抑制されていないことが、明らかになった。これらの所見はPDGFによる増殖と遊走が異なる細胞内情報伝達機構を介しているという従来の仮説を指示する結果であった。
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