本研究は、ドイツ現象学派内部においてダウベルト、プフェンダー、ライナッハらによって提示された言語行為の考え方の全貌をできる限り明らかにし、それをオースティンに始まる英米の言語行為論の成果と比較検討することによって、現象学の立場から、現象学と英米哲学との架橋を試みるものであった。英米の言語行為論との比較の上に立った、これまでにない新たな「言語行為の現象学」を可能な限り展開することを目指して、本研究は始められた。 まず第一に、ドイツ現象学派内部における言語行為の考え方の発展過程を辿って、ダウベルトからプフェンダー、ライナッハに至る思想の全貌をできる限り明らかすることが試みられた。ダウベルト、プフェンダーについては、時間的制約のために、その思想を十分に捉えることができなかったが、しかし、ライナッハについては、近年公刊された新全集の読解に基づいて、そこに明らかに、しかも英米の言語行為論よりも約半世紀も前に、「言語行為」論の考え方が形成されつつあったことが確認された。これが本研究の第一の成果である。 その上で第二に、ライナッハの言語行為の考え方と英米の言語行為論(とりわけオースティン)との比較検討が試みられた。これについては、残念ながら、十分な考察がなされたとは言えないが、しかし、次のことだけは、すなわち、現在英米哲学の一つの潮流を為しているオースティン以来の言語行為論に対して、ライナッハの「現象学的」言語行為論が、各言語行為の持つ本質連関を現象学的に解明してくれるという点で、十分寄与しうる余地のあることだけは、少なくとも確認された。以上が本研究の第二の成果である。 さらに第三に、「現象学的」言語行為論を基礎づける為に、現象学の流れを解釈し直す試みと、「現象学的記述」をめぐる考究が行われたが、これらは本研究にとって、きわめて有益であった。以上が第三の成果である。 以上の成果の一部は、論文の形で公刊され、また一部は立命館大学における講義で開陳された。
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