本年度の研究はまず、従来より収集していた第二次世界大戦期のドイツ映画のビデオの鑑賞および文献の調査から開始した。夏季にはベルリンに私費渡航し、ベルリン映画・テレビ大学とベルリン自由大学にて、当該作品についての資料を収集したほか、各期間の所蔵する該当作品をできるだけ多く視聴する作業をおこなった。また、ナチ時代の映画雑誌をマイクロフィルムで調査し、必要と思われる部分はコピーして持ち帰った。帰国後は、パーソナル・コンピューターを入手できたので、それを用いて過去に集めたナチ映画に関する情報の整理につとめた。その結果、ナチ時代に撮影された千本以上のドイツ劇映画のうち、約90%は「無害な娯楽映画」であり、極度に政治的な作品は数少ないことがわかった。そのほか、レヴュ-映画、歴史映画、コメディー映画、山岳映画といったジャンルごとにおいても分析作業を進めているが、ジャンルの境界が必ずしも明確でなく、数字的な分析の結論はまだ出せない状態にあり、これに関しては、来年度以降の課題として取り組むこととする。また、ナチ映画では主演クラスの俳優ごとに明確な機能づけがなされ、独特の世界をつくり出していたという仮説に基づき、数人の女優の主演映画に関して分析を進め、結果を論文としてまとめて発表した。それらと並行して、同時期の邦画に関しても調査を進めたが、本年は約60本の該当作品を視聴し、研究することができた。この時点ですでに、ドイツ映画と比較して邦画では露骨に政治的な作品(「国策映画」)が圧倒的に多いこと、アクションものとしては時代劇が中心であること、娯楽作品のなかにも戦争がはっきりと影を落とし、「非常時体制」が強く意識されているという特色が明らかになっているが、現時点まで研究した作品はまだまだ少なすぎるため、このテーマに関しても来年度以降のさらなる研究・分析が必要である。
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