人物の集合写真に中から知人の姿を見つけられなくて困ったり、逆にテレビの画面の端にちらりと映った自分の姿にすぐに気がついた経験は誰にもある。自分に関する聴覚刺激の閾値は他より低いことはカクテルパーティ効果現象という名でよく知られているが、視覚刺激については明らかでなかった。日常場面では、自分を見つける手がかりとして、集合写真での自分のいる位置や自分の服装といった外的で一時的な特徴を利用している可能性もある。本研究では、自分の姿が本当に見つけやすいのかどうかを、数名の大学生の顔写真を同時にコンピュータのディスプレイに提示し、その中にあらかじめ指示された顔が有るか無いかを判断させるという視覚的探索(Visual Search)手続きを用いて検討した。同時提示する顔写真の数を1、2、4、6と変化させたがそのいずれにおいても、自分の顔は他者の顔よりも統計的に有意に速く見つけることができた。また、顔の探索に要する時間は同時に提示された探索対象でない人物の人数が増えるにつれて探索時間は加算的に増加し、線分の傾きのような単純な刺激を探索するときに一つだけ異質のものが浮き出してみえる現象(pop out)は、見出されなかった。自分の顔か他者の顔かという要因と刺激の数の要因との間で有意な交互作用はなかった。この実験の結果、服装や位置のような外的で一時的な要因を取り除いても、被験者自身の顔は他者の顔よりも認知しやすいことが明らかになった。この実験で視覚的なカクテルパーティ効果の存在が実証された。これは日本心理学会で発表され、高く評価された。視覚的カクテルパーティ効果の説明として顔刺激に対する親近性を考えることができる。今後は妨害刺激としての他者と被験者との親近性を変数としてさらに研究を続ける必要性がある。
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