研究概要 |
本研究では、個人が自分の人生で経験した記憶(自伝的記憶)の想起(回想)に関して、以下の検討を行った。 1.社会学文化人類学におけるライフヒストリー研究を検討した。その結果、ライフヒストリーは、誰が、何のために、誰を相手に語るのかという複雑な要因に影響されること、また、ライフヒストリーは語り手と聴き手との共同作業の産物であることが確認された。 2.大学生38人(男性、20歳)を対象に、質問紙法により、「これまでの人生を振り返って思い出す出来事」と「最近半年間を振り返って思い出す出来事」を5個ずつ報告させた。そして「その出来事を経験した時の感情」と「その出来事を思い出して、いま感じる感情」を自由記述で回答してもらった。また、これらの回想の前後に状況不安測定尺度を実施した。結果は、 (1)人生を振り返って想起された出来事は過去5年間のものが最も多く、古い記憶ほど報告数は少なかった。 (2)経験した時の感情がそのまま想起されるケースは少ない。そのようなケースは、人生を振り返って想起された出来事190例中の22例、最近半年を振り返って想起された出来事190例中の26例であった。それ以外のケースでは、出来事や自分自身を対像化した記述(後悔、恥ずかしい、なつかしい、良い経験だった、等)が多く見られた。時間経過に伴い、出来事の記憶と感情が分離することが示唆される。 3)回想後は回想前と比べて、状況不安得点が低下した(回想前:平均44.3,回想後:平均41.5,t=1.85,p<.0.5) 今後の課題としては、報告された自伝的記憶の詳細な内容分析や、自己同一性地位などのパーソナリティ変数との関連の検討、回想(記憶の再構成)過程の詳細な分析、等が求められる。
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