本研究は、被験者にカウンセリング場面をビデオテープで提示し、そこに登場するカウンセラ-の印象を評定させた実験である。従来の研究では、カウンセラ-のクライエントに対するコミュニケーションにおいて言語優位条件(+V-NV)と非言語優位条件(-V+NV)を比較した場合、結果が一致しなかった。すなわち、カウンセラ-の共感評定や専門性評定において、言語優位条件よりも非言語優位条件の方が評定値が高い結果(+V-NV<-V+NV)と逆に非言語優位条件よりも言語優位条件の方が評定値が高い結果(-V+NV<+V-NV)の相反する結果が得られている。結果が一致しない理由として、観察者の感情状態の相違を要因と考え、本研究では、次の作業仮説を検証をした。カウンセラ-の印象評定に及ぼす言語行動・非言語行動不一致要因と観察者の感情要因は交互作用を示す。すなわち、観察者がupsetな感情では、言語行動よりも非言語行動が印象評定に及ぼす効果がより強いであろう。一方、被験者が落ち着いた感情では、非言語行動よりも言語行動が印象評定に及ぼす効果はより強いであろう。 結果は、言語行動・非言語行動不一致要因と観察者の感情要因は交互作用を示さなかった。しかし、言語行動・非言語行動不一致要因の主効果が認められ、非言語優位条件では言語優位条件よりも来談意図性が統計的に有意に高かった。これは、先行研究の一方を追証した結果である。感情要因の主効果は認められなった。これは、感情要因の操作がかなり困難であったことを示す。したがって、今後の研究では、感情のような個人の状態を要因とするよりも不安傾向の高い個人のように個人特性を要因配置した方が仮説の検証をより容易にすると思われる。尚、この研究結果は第59回日本心理学会で発表される。
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