本研究は、「思春期までの子ども期に様々なつらい情緒的経験をし、それを愛着関係の支えを通して『克服』することは、パーソナリティとしての共感性を発達させる」という可能性を、質問紙調査により探索的に検討することを主目的とした。大学生210名を対象に、次の3つの質問紙を実施した:1.「愛する対象の喪失」「重病にかかる」「両親の離婚」など多様なつらい情緒的出来事45項目の経験の有無(頻度)とそのつらさの程度を回想によって回答させた。全体としてつらさの程度は、女子>男子となった。また、自分の大切な人に起きた出来事の方が自分自身に生じた出来事より自分にとってよりつらいと受けとめられていた。2.子どもの頃、家族や友人からどの程度一貫したサポートを受けていたか評定させ、愛着関係の支えの安定した「環境」であったかの指標とした。家族、友人とも1因子からなる20項目が得られ、サポートの安定している者はつらい情緒的経験の頻度がより少ないことを示す負の相関関係が見いだされた。3.橋本・角田(1992)の共感性質問紙により、青年期後期の共感性を(1)「動揺しやすさ」、(2)「思いやり」、(3)「空想」、(4)「役割取得」の4因子から検討した。共感性と他の変数の関係は;(1)自分自身が経験した出来事のつらさの程度は共感性の(1)(2)(3)及び合計点と正相関を示すが、経験の頻度と共感性には正相関は見いだされない。(2)サポートの安定度は共感性の(1)以外と有意な正相関を示した。(3)サポート高群と低群別につらさの程度と共感性の関係を分析した結果、(1)で(2)との間に見られた相関が有意でなくなった。(1)はサポート高低両群で、(3)と合計点はサポート低群で各々経験のつらさと正相関を示した。以上より、つらい情緒的経験、愛着関係の支え、その両者の組み合わせ、のそれぞれが共感性に異なった影響を与えることが示唆され、作業仮説は部分的に支持された。
|