本年度も前年度以前よりの研究及び調査をふまえ、文献資料も活用しながらのまとめをおこなった。その研究のひとつは、『岩波講座現代社会学12こどもと教育の社会学』に執筆中の「学校の比較エスノグラフィ:韓国・日本・タイ・インドネシア」である。そこでは、四つの地域の高校を数多く訪問調査してきた経験をデータとして、「学校」のつくりあげられ方の差異を、空間的配置、時間的拘束、制服の特徴、共学と別学などに着目しながら明らかにした。それによると、日本や韓国の学校は、職員室の「島」式の机配置からいっても、学校での活動や制服により管理からいっても、制服や別学化によるジェンダー(性別)の強制からいっても、「自由」の度合の低い地域である、と考えられた。反対に、「自由」の度合が高いと考えられたのはインドネシアで、「談話室」式の空間編成や短い拘束時間、学校も性別もさして強調しない制服、共学の原則が、教員や生徒の活動の自由度を、日本や韓国などに比べて高めていた。韓国と日本の学校が「重い学校」とするならば、インドネシアの学校は「軽い学校」と特徴付けることができる。このことは、理念の違いというより、政府予算の配分割合の違い(韓国22.4%、日本16.2%、インドネシア4.3%)が結果的に生み出したものである。タイの学校は、インドネシアの「軽い学校」と日本や韓国の「重い学校」の中間に位置している。学校滞在は正規授業にとどまり、週休二日で、制服が比較的簡単で、共学の原則が存在しているという点では「軽い学校」だが、校長による監視の可能な教員の机配置や制服の着方を指示する看板、女子の「可愛い」制服や「女子校」の多さや男子生徒の丸坊主など、規律化の網の目が張りめぐらされているという点では、「重い学校」である。 「チットプ-ミサックの『アユタヤ時代以前のチャオプラヤ川流域におけるタイ社会』について」は、そうしたタイ社会の現状の歴史的起源について考察するものであり、「エスニックグループとしての日本人」は、タイ社会とインドネシア社会(及びマレーシア社会と)の構造的差異を、日本人との関わりを通して描こうとするものである。 そのほかに、「受験競争」に関する調査については、前年度にひきつづいて『東南/東北アジアにおける受験競争:比較地域研究の試み』という学位論文にまとめつつある。本年度はとりわけ、調査結果の計量化に取り組んだ。
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